氷帝学園中等部。
ここには姫が二人存在する。
姫といっても絶世の美女などと言う訳ではなく(まぁある意味そうなのだが)、どういうわけかそれは三年の男子だった。
それでもこの学園の女子はそれを認めざるを得なかった。
しかし、影でそう囁かれていることは、本人たちは知らない。
この中でも今回は「黒髪美人」と呼ばれている方を中心に進めていこうと思う。
「あー。またあの人宍戸さんのこと見てましたよ」
「んなわけねーだろ。いいから部活行くぞ、長太郎」
この無愛想な彼が黒髪美人、宍戸亮。
そのアジア特有の艶やかな黒い長髪は通る人全てを魅了した。
しかし、今年の夏テニス部員のみならず試合を見物に来ていた学園生徒の目の前でその綺麗な黒髪をばっさりと切ってしまったのである。
それでも、そんな彼に人気があるのは誰とでも対等に接することのできる寛大な心と、髪を切ってもなお美しいその容姿にあるだろう。
「だって…。あっ、待ってくださいよー」
この一見頼りなさそうなほうが、二年の鳳長太郎。
彼もそれなりに(というかかなり)人気があるが、そんなことは長太郎にとってどうでもいいことだった。
三年の宍戸と二年の鳳はとても仲がいい。それは日頃から部活動のテニスでダブルスを組んでいるせいもあるが、実はこの二人、付き合っているらしいのだ。
…っと言っても、学園に通う殆どの人は知っていることだった。
それでも宍戸は一生懸命に隠しているつもりらしいが、普段の二人を見ていると、どう見てもいちゃついているようにしか見えなかった。
「まだ誰も来てませんね」
「あぁ。今日はみんな委員会が重なってるらしいからな」
文武両道を兼ねそろえるテニス部員は、何かと委員会やら実行委員などに所属していて今日みたいなことはよくあるのだ。
部長の跡部も生徒会会長で普段は偉そうに見えるが、結構苦労しているらい。
そんな中、宍戸と鳳は何の委員にも属せず放課後は部活動のみに打ち込むことができた。
人気のある二人なので、たくさんの委員から推薦などの後押しがあったのは言うまでもない。
「先にストレッチでもやっとくか、長太郎」
「…それより宍戸さん。あのっ、その・・・」
「あ?何だよ!!」
急にもじもじしだす長太郎にキレる。
「えっと・・・、少しの間でいいですから抱きしめてもいいですか?」
返事を聞くより先に長太郎は手を伸ばす。
「なっ…、何だよ急に。放せっ、おい、誰か来たら…」
「誰も来ませんよ。皆さん委員会なんでしょ?それにこんなところで宍戸さんと二人っきりになったら、俺、我慢できません!」
「って、二人っきりになる度に言ってんじゃねーか」
「それでも宍戸さんはいつも許してくれますよね」
子犬のような笑顔を向けながら、大型犬のような力強さで抱きしめる。
「まだ当分人が来ない気がする。…しちゃいましょ」
そう言って突然眩暈のするようなキスの嵐が宍戸を襲う。
一方その頃、下駄箱付近に二人の男子生徒がいた。一人はどうやら機嫌が悪いらしい。
「お前、何もたもたしてたんだよ」
「今日日直で日誌書かなあかんねん。少し位ええやん。いつも俺のほうが待っとるんやから」
「そんなの他の奴にやらせればいいじゃねーか。ただでさえ生徒会で遅れてんのに、この俺様の足を引っ張んじゃねーよ」
話を逸らし悪態をつきながらも待ってあげる健気な彼は、もう一人の姫、三年の跡部景吾。
「俺は景ちゃんと違うて真面目なの」
関西弁のほうが同じく三年の忍足侑士。
「ふんっ。真面目が聞いて呆れるぜ。この前校舎裏でタバコ吸ってたのはどこの誰だよ」
「あ。見とったん?ええやん、誰にでも隠し事の一つや二つあるやろ。ようはそれを上手く隠せるかどうかや」
忍足はウインクしながら答える。
結構真剣に心配して指摘をした跡部にとって、ここで笑う忍足に少しムッとした。
「俺はそういうのが嫌いなんだよっ」
忍足を置いてすたすたと先に歩き出す。
段々後方が気になってきたところでようやく部室の前まで辿り着いた。
「宍戸さん、気持ちいいですか?」
部員が来たときのために服は脱がず、上にずらして宍戸の胸の上を這うように舌を転がす。
「ばかっ。そんなこと聞くんじゃねー」
支えるために添えた手がわき腹をくすぐるような感じで、さらに宍戸を興奮させる。
「長、た……ぅ」
「宍戸さん」
互いの声が互いの耳をくすぐる。
「長、太…郎…。もう……」
待ちきれないと言わんばかりに目の前の自分より大きな体にしがみつく。いつの間にか涙まで溢れていた。
「まったく、宍戸さんたら。ここで一回達っときますか?」
「………」
急に黙ってしまった。
達きたい気持ちは山々だったが、それが言える程宍戸は素直になれなかった。その代わりに思いっきり睨んでやった。「達かさないと殺す」と言わんばかりに。
「卑怯です、宍戸さん。何も言わずにそんな目で見つめてくるなんて」
しかし、どうやら長太郎にはまったく効いていなかったらしい。
「……わかりましたよ。だから、そんな目で見つめないでください」
降参とばかりに苦笑しながらも次の瞬間には獣の目に変わっていた。
「長っ…たろ…。もっと…ゆっくり…」
擦られるその部分はとうの前から熱を帯びている。少しの刺激であっという間に達ってしまいそうだった。
本能のままに攻め立てられる。
抗う力などなかった。
「あぁっ……」
「何だ、これは――」
ドアに手をかける前に聞こえた声。
いやな予感がして近くの窓から中を覗いてみた。
「どうしたん?どれどれ…って、あちゃー。『いたしてます』やん。こりゃぁどっかで暇つぶしでもしてくるか。行くで、景ちゃん」
丁度現場を見てしまった跡部は、驚きと怒りでその場に立ち尽くした。
「待て。あいつらをこのままにしていいのか」
「ほな、景ちゃん。あん中に入れる?」
「……」
たしかに。流石の跡部もあの現場に入れる程神経図太くない。
「ほな、行こうか。何なら俺らもやる?あれ」
言うや否や跡部の怒りの鉄拳が飛んだが、予想していた忍足は難なくそれをかわした。しかし、次に出てきた反対の手の平手打ちまでは予想していなかった。
「やるやないか」
二人のすぐそばの部室内では相変わらず甘いやり取りが行われていた。
次の日。
「宍戸さん!」
相変わらず長太郎は三年の教室に入り浸っている。
「お前なぁ、少しは遠慮ってモンはねーのか」
「やだなぁ。僕いっつも宍戸さんに遠慮してますよ?今だってすぐにでも抱きつきたいのに、宍戸さんが恥ずかしがるから腕を組むだけで我慢してるんだから」
そう言ってぎゅっと腕にしがみつく。
「これでも十分恥ずかしいだろ!!」
必死に逃れようとはするが力で長太郎に勝てるわけがなかった。
「さぁ、お昼に行きましょ。宍戸さん」
宍戸に思いを寄せる同級生の嫉妬の目をよそに二人は教室を出た。
「今日もいい天気ですね」
「あぁ」
屋上に出ると早速購買で買ったパンの包みを開け、それを黙々と平らげていく。
ふと空を見上げると、真っ青な空に一筋の飛行機雲があった。
こういう日は嫌いじゃない。
会話がなくても自然と心が落ち着く。
昼食の後に軽く昼寝でもしようかと思っていると、忍足と跡部も昼食をとりに来たようだった。
たまにはいいかなと思い、呼んでみることにした。
「跡部と忍足じゃねーか。こっちこいよ。一緒に食おうぜ」
しかし、こちらに気付いた跡部は顔をかっと赤らめ来た道と逆を向いて帰ろうとした。
様子がおかしいと思い忍足の方を見ると、こっちは逆にニヤニヤしていた。口がぱくぱく動いていたのでよーく見てみると、『昨日の放課後』と言っていた。
何のことだかすぐに察しが付いた。
見られたっ!!
思うと同時に手が出た。
「長太郎!!」
ぱちーんっ!
にこにこと宍戸を見つめていた長太郎は跡部たちが来たことにも気付かず、あまりの行動の早さに対応できなくてもろ平手打ちをくらってしまった。
「何ですか、急に。痛いじゃないですか!」
「どうすんだよ。見られてたじゃねーか、昨日の…」
「えっ?あぁ、知ってましたよ」
とんでもない言葉を口にする。
「は?」
「だから知ってましたって。窓から二人除いてましたもん。それより今、詩にハマってるんですよ。宍戸さんにも一つ作りましたよ聞いてください――」
「知ってただと!?お前って奴はっ・・・!!!」
そんな二人を眺めながら忍足はふと空を見上げた。
「空が綺麗やなぁ」
どんなに意地を張ったって見える心
はにかんだようなその笑顔
たまに見せる怒った顔も
すべてが愛おしい僕の貴方
僕だけが知っている貴方の真実
BY¨鳳 長太郎
―END―
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